評価制度が弱い会社で優秀なエンジニアほど消耗する理由
「優秀な人が辞めていく」という相談を受けることがあります。話を聞くと、辞めた人は決まって、一番仕事を引き受けていた人です。
問題は個人の忍耐力ではありません。評価制度が弱い組織では、優秀な人に仕事が集まり、その集まった分が評価されないという流れが自動的に発生します。 私は評価を付ける側にいたので、この流れが意図せず作られていく過程を見てきました。この記事では、その構造を分解します。
- 仕事が優秀な人に集まる仕組み
- 集まった仕事が評価されない理由
- 消耗が進む5つの段階
- 消耗を止めるための線引き
現場で実際に起きている光景
抽象的な話にする前に、具体的な場面を挙げます。心当たりがあるかもしれません。
- 障害が起きると、担当かどうかに関係なく同じ人が呼ばれる
- 仕様が曖昧な案件は、「あの人なら何とかしてくれる」で割り振られる
- 新しく入った人の教育係が、毎回同じ人になっている
- レビュー依頼が一人に集中し、その人の実装時間が夜に押し出される
- 他部署からの相談が、正式な窓口を通らずにDMで届く
- 期末の評価では、その人も他のメンバーも同じ「標準」がつく
最後の行が問題の核心です。負荷は偏っているのに、評価は偏らない。 これが続くと、引き受ける動機が消えます。
なぜ優秀な人に集まるのか
集中は、悪意ではなく合理性から生まれます。
1. 頼む側にとって最短だから
誰に頼めば確実に終わるかを、周囲は知っています。急いでいるときほど、確実な人に流れます。一回うまくいくと、次も来ます。
2. 役割が定義されていないから
誰の担当か決まっていない仕事は、気づいた人か、できる人のところに落ちます。評価制度が弱い会社は、たいてい役割定義も弱いです。構造は役割が曖昧な会社でエンジニアが評価されにくい理由|便利屋化する前に見ることで扱っています。
3. 断らないから
責任感の強い人ほど、断ると誰かが困ることを知っています。だから引き受けます。この性質が、集中を加速させます。
なぜ集まった仕事は評価されないのか
ここが二段目の問題です。集まってくる仕事には、共通の性質があります。
| 集まってくる仕事 | 評価シートでの扱い |
|---|---|
| 障害対応・火消し | 項目がない。計画外なので目標にも入らない |
| 仕様が曖昧な案件の整理 | 成果は「無事に終わった」で、記録に残らない |
| 教育・レビュー | 成果は相手の成長として計上される |
| 部署をまたぐ調整 | 評価者の目に入らない場所で起きる |
| 属人化した運用の維持 | 何も起きないので存在が見えない |
評価シートに項目がない仕事ばかりが集まるのです。しかも、これらに時間を使うほど、評価シートに項目がある「開発成果」が減ります。結果として、最も働いている人の評価が最も伸びないという逆転が完成します。
消耗が進む5つの段階
相談を受けてきた範囲で、進行にはパターンがあります。
第1段階:頼られている実感がある
まだ前向きです。「自分がいないと回らない」がやりがいになっています。
第2段階:自分の仕事が後回しになる
日中は割り込みで埋まり、本来の担当は夜と週末に押し出されます。ここで総労働時間が増えます。
第3段階:評価とのズレに気づく
期末に、引き受けていない人と同じ評価がつきます。ここで初めて「割に合っていない」と認識します。
第4段階:引き受けるのをやめる
全部を断るか、最低限だけこなすようになります。周囲からは「急に協力的でなくなった」と見えます。
第5段階:辞める
転職先が決まってから、周囲が初めて事態を知ります。会社側は「突然辞めた」と受け取ります。
第3段階で手を打てるかどうかが分かれ目です。 ここを越えると、本人の気持ちが先に切れます。
消耗を止めるための線引き
1. 負荷を数字にする
1か月、割り込み対応に使った時間を記録します。「体感で多い」は動かせませんが、「月45時間」は業務量として扱われます。
2. 属人化をリスクとして提示する
「私が休むと止まります」は個人の都合ではなく、事業の継続性の問題です。この言い方に変えるだけで、役割分散の議論に持ち込めます。
3. 引き受ける前に優先順位を返す
すべて断るのではなく、「今これを持っているので、どちらを先にしますか」と判断を上司に返します。断るより角が立たず、負荷も可視化されます。
4. 評価項目の追加を求める
期初に「レビューと障害対応を評価対象に入れてほしい」と伝えます。昇格要求より通りやすい現実的な一歩です。
5. 期限を決める
半年後に状況が変わらないなら、その会社では制度として扱う意思がないと判断できます。ここを決めておかないと、第4段階まで進みます。
会社を変える判断をするとき
手を打っても変わらない場合、それは能力ではなく設計の問題です。次の状態がそろっているなら、環境を変える判断は合理的です。
- 負荷を数字で示しても、割り振りが変わらない
- 評価項目の追加を求めても、制度上できないと言われる
- 同じことが数年繰り返されている
- 自分より先に、同じ立場の人が辞めている
なお、転職先を選ぶときは年収だけでなく、評価制度が文書化されているかを確認してください。同じ構造の会社に移ると、同じことが起きます。見分け方は正当に評価してくれる会社の見分け方|求人票と面接で見るポイントにまとめました。
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よくある質問
Q. 断ると評価がさらに下がりませんか A. 全部断る場合はそうなります。優先順位を上司に返す形なら、判断を仰いでいることになるので評価は下がりません。むしろ、抱え込んで遅延するほうがマイナスに見えます。
Q. 会社に制度を作る余力がないのは分かっています A. 理解できる事情ですが、その状態が続く限り、あなたの負荷は評価されません。会社を責める必要はありませんが、自分の時間の使い道は自分で決める必要があります。
Q. すでに第4段階まで来ています A. その状態で無理に前向きさを取り戻そうとしないほうがいいです。まず負荷の記録だけ作ってください。社内で交渉するにも、外に出るにも、同じ材料が使えます。
まとめ
評価制度が弱い会社で優秀な人が消耗するのは、性格の問題ではなく構造の問題です。
- 頼む側の合理性と、役割定義の弱さが集中を生む
- 集まってくるのは、評価シートに項目がない仕事ばかり
- その仕事に時間を使うほど、評価される項目の成果が減る
- 第3段階(評価とのズレに気づいた時点)で手を打てるかが分かれ目
まずは1か月、割り込み対応に使った時間を記録してみてください。その数字が、社内で交渉するにも、外を見るにも、最初の材料になります。