エンジニアの給料はなぜ会社によってここまで違うのか|利益構造と単価の裏側
技術力は上がっている。任される範囲も広がった。それなのに、昇給額は毎年1万円前後で止まっている。上司に聞いても「評価はしているんだけどね」で会話が終わる。
この状況の多くは、上司の評価が低いからではありません。会社が配れる原資そのものが小さいのです。私は管理職として昇給の原資配分に関わってきましたが、評価が高い人に十分な額を出せないという場面は実際にあります。この記事では、その原資がどこから来るのかを整理します。
- 給料の原資が売上から手元に届くまでの流れ
- 人月商売と自社サービスで昇給余地が変わる理由
- 商流の深さが年収に与える影響
- 自分の会社の構造を確認する方法
給料の原資は「売上」ではなく「粗利」から出る
まず押さえておきたいのは、給料の原資は売上ではなく粗利だということです。
売上から原価を引いたものが粗利で、そこから人件費、オフィス、管理部門、利益が支払われます。エンジニアの昇給に回せるのは、その粗利のうち人件費に割ける分の、さらに一部です。
ここで会社ごとの差が出ます。
| 事業形態 | 粗利率の目安 | 昇給原資 |
|---|---|---|
| 二次請け以下の受託・常駐 | 10〜20% | 非常に小さい |
| 一次請けの受託開発 | 25〜40% | 中程度 |
| 自社サービス(SaaSなど) | 60〜80% | 大きい |
同じ人数のエンジニアを抱えていても、配れる額が数倍違います。あなたが評価されていないのではなく、会社の粗利率が構造的に低いという可能性が常にあります。
人月商売では、生産性を上げても売上が増えない
受託や常駐で「人月」で契約している場合、売上は「単価 × 稼働月数」で決まります。ここに落とし穴があります。
たとえば、3人月かかる見積もりの案件を、あなたが工夫して2人月で終わらせたとします。会社が受け取る金額は契約通りの3人月分かもしれませんが、次の見積もりからは2人月で出されるようになります。つまり、生産性を上げるほど売上が下がる構造です。
自社サービスなら話は逆で、同じ工数で機能を1つ多く出せれば、その機能が生む収益は積み上がります。エンジニアの努力が売上に結びつく方向が、事業形態によって真逆になるのです。
この構造の中にいると、どれだけ技術を磨いても年収に跳ね返りません。技術力と年収が連動しない理由は技術力があるのに年収が上がらないエンジニアの構造的な理由でも扱っています。
商流が深いほど、手元に残る額は減る
常駐や受託では、発注元から自分の会社までに何社挟まっているかが決定的です。
エンドユーザーが1人月120万円で発注したとして、間に2社入ると、各社がマージンを取ります。一次請けが20%、二次請けが15%を取れば、三次請けの会社に入るのは80万円台です。そこから会社の粗利を引いて、残りが人件費になります。同じ現場で同じ仕事をしていても、所属会社の位置で年収が変わります。
自分の会社の位置は、次のような形で推測できます。
- 契約書や発注書に、エンドユーザーではない会社名が書いてある
- 常駐先で、自社以外に複数のベンダーが混在している
- 「元請けさんの確認を取ります」という言葉が日常的に出てくる
- 営業が案件を「もらってくる」立場になっている
この位置は個人の努力では動かせません。SESでの評価ギャップについてはSESエンジニアが自社で評価されない理由|常駐先との評価ギャップに詳しく書きました。
採用側から見ると、構造の中にいた人はどう映るか
ここで誤解してほしくないのは、粗利率の低い会社にいた経験が、転職市場で不利になるわけではないということです。
採用側が見るのは、その環境で何を積んだかです。実際、受託や常駐の経験者には次のような強みがあります。
- 複数の業界・システムを短期間で理解してきた
- 顧客折衝と要件のすり合わせを日常的にやってきた
- 引き継ぎとドキュメント化の習慣がついている
- 自分でコントロールできない条件の中で納めてきた
問題は、これらを「言われたものを作っていた」としか説明できないことです。構造の話は年収の説明にはなりますが、転職の場では自分が何を判断してきたかを語れるかどうかが評価を分けます。
自分の会社の構造を確認する
転職するかどうかに関係なく、自社がどの構造にいるのかは把握しておいて損がありません。確認しやすい材料を挙げます。
社内で分かること
- 決算公告や会社説明資料に載っている売上と営業利益。粗利率が計算できる
- 一人あたり売上高。売上 ÷ 従業員数で、ざっくりした単価感がつかめる
- 自分の案件の契約形態が、人月か、請負か、サービス利用料か
面談で聞けること
- 「昇給の原資はどのように決まっていますか」
- 「等級が上がったとき、給与レンジはどのくらい変わりますか」
これらを聞いても曖昧な答えしか返ってこない場合、制度で決まっていない可能性が高いです。昇給交渉に持っていくなら、材料の揃え方をエンジニアが昇給交渉前に用意すべき材料|感情ではなく比較で話すにまとめています。
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よくある質問
Q. 粗利率の低い会社にいた経験は、転職で不利になりますか A. なりません。ただ「言われたものを作っていた」としか説明できないと、判断力が見えません。要件の曖昧さをどう潰したか、複数システムをどう短期間で理解したかを語れれば、むしろ強みとして伝わります。
Q. 自社の粗利率が分からない場合はどうすればいいですか A. 非上場でも、決算公告や会社説明資料に売上と営業利益が載っていることがあります。分からなければ、自分の案件の契約形態(人月か請負かサービス利用料か)を確認するだけでも、どの構造にいるかは推測できます。
Q. 構造が悪いと分かったら、すぐ転職すべきですか A. 急ぐ必要はありません。構造が理由で年収が伸びないと分かっただけでも、自分を責めずに済みます。そのうえで、同じ役割が別構造の会社でいくらで募集されているかを見て、差がどのくらいかを把握してから判断すれば十分です。
まとめ
給料が伸びない理由は、評価より前に構造で決まっていることがあります。
- 原資は売上ではなく粗利から出る。粗利率は事業形態で数倍変わる
- 人月商売では、生産性を上げても売上が増えない方向に働く
- 商流が深いほど、同じ仕事でも手元に残る額が減る
- 構造は個人の努力では動かない。動かせるのは自分が立つ場所
まずは自社の粗利率と、自分の案件の契約形態を確認してみてください。そのうえで、同じ役割が別の構造の会社でいくらで募集されているかを見ると、今の年収が構造由来なのか評価由来なのかが切り分けられます。